相続を放置すると
時間が経てば経つほど、手続きが煩雑に
相続手続きには、相続人全員の合意形成が必要です。
相続人の中に長年、音信不通者がいたり、親戚付き合いを避けたい者がいても、例外はありません。
相続に不動産が含まれている場合は、要注意です。
例えば、名義が父親のままになっている家に長男が住んでいて、その長男の子に名義を変更しようとする場合には、まず父の遺産分割を整えなければなりません。
このとき、二男が既に他界している場合、二男の子が代襲相続人となります。二男の子と親戚付き合いが無くどこに住んでいるのか知らなくとも、協議に含めない事はできません。
このように、相続人の数が増えれば増えるほど、相続人全員の合意形成手続きが複雑に、且つ、難しいものになってしまうのです。
相続人が増える事例
相続が一世代の場合
次の例ですと、3名が相続人となります。
相続が二世代に渡る場合
次の例ですと、5名が相続人となります。
孫世代に未成年者が含まれている場合、家庭裁判所の許可を得て、法定代理人を選任しなければなりません。
相続人が減る事例
こどものいない叔父や叔母の財産を相続するというケースもあります。
親戚付き合いがあれば良い方で、中には年賀状のやりとりだけで、数十年顔を合わせた事が無いという事もあります。
事情を知っている子の存命中は問題ありませんが、子の相続が発生した場合には事情が分からなくなってしまうという問題が生じます。
疎遠になる事例
離婚の例として、次の図では4名が相続人となります。
元配偶者の子に”内緒で”相続を整えてしまうという事はできません。
元配偶者の子と接触したくないという心情面は理解できますが、避けては通れません。
相続にも、時効がある
債権を相続した場合
被相続人が貸金債権を有していた(誰かにお金を貸していた)場合、督促をしませんと2年で消滅時効にかかってしまいます。
問題なのは、遺産分割をするまでは貸金債権も相続人の共有財産となります。相続人のうち、「誰かが請求するだろう」とお互いに譲り合っているうちに時効にかかってしまわない様、「誰が、いつ、どのように督促するのか」をしっかりと協議しておく必要があります。
遺留分減殺請求権
遺言などで相続分の指定がなされている場合、「ちょっとまった!」と申し立てることができます。
民法では、法定相続分の二分の一(例外:三分の一)を遺留分として認めていますが、相続開始を知ったときから1年間または相続開始から10年間で時効消滅します。
財産を残す者の大切な仕事
財産を貰い受ける者達に比べ、財産を残す者の仕事は、山ほどあります。
将来、自分の親族が”争族”を起こさぬよう、「一言言い残す」事が重要です。
自分が思い描く「相続」を実現する方法は、いくつかあります。
「私からあなたにこの家をあげる」というのは、贈与です。贈与契約書により締結します。
メリットは、財産をあげる人と貰う人の意思の合致のみで成立しますので、例えば不和な兄弟から横やりを入れられる心配がありません。デメリットとしては、贈与税は相続税に比べ高く設定されています。
「私が死んだら、あなたにこの家をあげる」というのは、死因贈与です。死因贈与契約書により締結します。
贈与と同様、財産をあげる人と貰う人の意思の合致のみで成立します。
相続時課税清算制度を利用する事で、節税効果が期待できます。また、不動産の仮登記をしておくことができます。
「私が死んだら、あなたにこの家をあげる」という意思を、遺言に残しておくという選択肢もあります。
遺言は法律で成立要件が定められており、要件を満たしていないと無効となってしまいます。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など種類もいくつかあり、それぞれメリット・デメリットがあります。いつでも、何度でも書き換える事ができますので、近年注目されている相続の一手法でもあります。
遺言に依る相続の場合、遺留分について注意する必要があります。
親族が少ない場合、叔父・叔母から甥・姪へ相続させたいというご相談も増えてきております。
家族構成にもよりますが、養子縁組によって将来の相続に備えるという方法も選択肢の一つです。
この様に、
どういう選択肢が自分にとってベストな方法なのか?
確実に「一言言い残す」ためにはどうしたら良いのか?
将来への道筋を残すことは、相続させる側の大切なお仕事と考えますが如何でしょうか?
財産を残された者の重要な仕事
大多数の方がイメージされる、いわゆる「相続」と呼ばれているものです。
親族一同が会して、遺産分割協議書を作成して遺産分割を行います。
遺言書がある場合には、遺言書が優先します。ただし、法的に有効な場合です。
中には相続開始後、数年~十年以上も手つかずになっている案件もあります。この場合、法定相続人を確定するだけでも相当な作業量を要します。
この段階で協議が整わず、いわゆる「相続争い」へと発展してしまうのです。
どうして揉めるのか?
実際に遺産分割協議を始めてから、揉めてしまったお客様の多くは、「我家に限って揉める筈がない」「財産が無いから揉める筈がない」と考えています。話合いが整わずに家庭裁判所に持ち込まれるトラブルのうち、相続財産が1000万円以下の事案が、全体の4割を占めています。
財産の多い少ないと、揉める理由は別物です。
理由1
不動産の分割は簡単ではない
不動産の場合、現金のようにきっちりと分割する事は容易ではありません。
金銭の多寡だけが「公平な分割」ではないことを、相続人が(例え不服に感じていようとも)納得することが肝心です。
事例1 めぼしい財産は、自宅だけ。兄弟二人で、どう分割する?
兄の立場からすると・・
「長男だから・・ 現に居住しているから・・ 親の面倒も見てきたし・・自宅は俺のもの」
弟の立場からすると・・
「長男だけ財産を貰って、不公平だ」
事例2 田畑は、跡取りの兄に一括して譲りたい
田畑を全て兄に相続させる場合、弟夫婦には、何を残してあげますか?
同等程度の現金が用意できない場合、どのように弟夫婦を納得させますか?
事例3 自宅は兄へ残す。弟へは畑を残し、弟の自宅を建てて欲しい
その畑には自宅が立てられますか?
建設後、生活に不自由は無いのでしょうか?
都市部近郊の畑であれば生活環境に不足は無いでしょう。弟が、評価額に換算して不服を述べた場合、兄の負担が増える事になります。
農地の処分について。
例えば、こどもは遠方で会社員をしており、実家の田畑について跡継ぎがいないとき。こどもが相続を受けたとしても、農地は自由に売買(処分)することができません。遠方で会社員をしているこどもに、その手続きを負担させますか?
理由2
気持ちは見えない
残念ながら、気持ちを覗くことはできません。
兄弟だからこそ、積年の思いが一気に噴き出すということも珍しくありません。
事例1 めぼしい財産は、自宅だけ。兄弟二人で、どう分割する?
兄の立場からすると・・
「長男だから・・ 跡取りだから・・ 自分が財産を引き継ぐのは当然だ」
弟の立場からすると・・
「現金を貰ったけど、兄とのつり合いが取れていない。不公平だ」
事例2 兄嫁が介護で世話してくれたけど、兄嫁は相続人にはならない。
兄嫁の立場からすると・・
「何も世話もしてこなかった弟夫婦ときっちり二分の一なんて、不公平だ」
弟の立場からすると・・
「法定相続人は兄と自分の二人。兄嫁は他人だから、相続はきっちり二分の一を貰うのが公平だ」
事例3 先妻の子と後妻の子と、どちらが相続する?
先妻の立場からすると・・
「自分は、離婚によって相続人とはならない。築いた財産を、後妻に持って行かれた。くやしい。」
後妻の立場からすると・・
「先妻は、既に慰謝料や養育費の支払いを受けているのに、更に相続を貰うなんて。私との間で築いた財産を、どうして他人に渡さなければいけないの?」
事例4 兄は大卒。弟は高卒。学費の差は?
兄の立場からすると・・
「大学進学は、自分が努力した結果だから、当然のこと。」
弟の立場からすると・・
「兄は自分より学費を多く貰ったのだから、兄の学費同等額の金銭は自分も貰わないと不公平だ。」
理由3
親戚付き合いが遠い
事例1 離婚・再婚(その1)
先妻の子と後妻の子がいる場合、どちらも相続人となります。
「先妻の子は成人しているけど、後妻の子はまだ小学生だから・・」といった事情があっても、法定相続分は同じですから、当然に争いが生じます。
事例2 離婚・再婚(その2)
再婚した妻の連れ子には、当然には、相続権は発生しません。即ち、相続できないのです。元妻の子が相続権を主張した場合、拒めません。再婚した妻の連れ子と元妻の子との間で、争いが生じます。
事例3 こどもがいない
配偶者(妻)以外に、夫の兄弟姉妹が相続人となります。
めぼしい財産が自宅だけの場合、妻に自宅を処分させて金銭に換価した後に、夫の兄弟姉妹に分割させることは、公平の見地に適っているのでしょうか?
妻が処分に合意するか夫の兄弟姉妹が相続放棄に合意するのか、それ以外に解決策を見出さない限り、争いは激しさを増していきます。